1.イントロダクション
さて、今シーズンは10月早々に北海道・旭川の"ねんねこさん"からメコノプシス・ホリドゥラの株をいただきました。(元々の生みの親は富山の"うおれすさん"です)
これまで僕が咲かせてきたベトニキフォリアは、高地にあるメコノプシスの中でも比較的低地にあるのですが、このホリドゥラは、更に高地、エベレストの5700mあたりにもある種です。
かつてヨーロッパから来たプラントハンターは、がれの中に咲くこの深い青色のホリドゥラを見て始めは鉱物だと思ったそうです。
続いて12月末になって、ロイヤルオランダフラワーからベトニキフォリアが3株届きました。
ベトニキフォリアのほうは、ここ数年、関西で開花させる方も増え、めずらしくなくなったものの、2002年は2株中1株、2003年は3株中1株という状況を考えれば、まだまだ安定した栽培手法が確立できたとはいえません。
ただ僕は「一般的な園芸の知識があれば誰でも青ケシは咲かせられる」と確信しています。
決して一部のマニアックな園芸ファンの自慢話にでてくる花でありません。
ただし、残念ながら九州・沖縄のような暑い地域はたぶん無理ですし、開花見込株といえど一輪咲いたら儲けモノという、ハイリスクな花ではありますが・・・。
2.メコノプシスは特殊な植物か?
この3年間、この植物と付き合ってみて思ったのは、決して特殊な植物ではないということ、つまり基本的には普通の花を育てることと同じ方法でやればいいということです。
もちろん暑さは苦手な植物ですからそれなりの工夫は必要です。
しかし、かといって真冬の屋外で咲くわけがなく、ヒマラヤでも日本とほぼ同じ時期、春がきてから咲きます。
問題は夏にむかって暑くなるので必然的に花期が短くなり、またその為に翌年まで生き残れないという点だけなのです。
もともと宿根草であっても夏を乗り越えるのが難しく、一年草扱いになっている植物は他にも沢山あります。
そこでもう少し基礎知識をつけようと何冊か読んだ簡単な植物の生理学の本は大変参考になりました。
あわせて、様々なサイトからランダムに集めた情報、植物のことだけでなく、ヒマラヤの気候風土のことや太陽の運行と季節の移り変わり、さらには人間の睡眠とスキンケアの関係まで・・・、いろいろな情報がなにかとても大切なことを示唆しているように思えるのです。
話が少々外れますが、この地球上の動物というカテゴリに属する僕が、もう片方の植物というグループを眺めてみたときに、いかに植物がこの惑星と一体化して生きているかが良くわかったのです。
動物の頂点に立つ人間は地球環境を自分たちの住みやすい環境に変えようと有史以前から努力してきたのですが、如何せんそれは環境破壊となり人間だけでなく、他の動物や植物に対しても害を及ぼすことが多々あります。
しかし植物は光合成という画期的なシステムで光と二酸化炭素をエネルギーにして無理なく無駄なく効率的に、この地球の様々な環境に適用して生きています。
人間はこの地球に共存する植物から沢山のことを学び直す必要があるのではないかとさえ思えるのです。
3.メコノプシスは光で目覚める?、2004年の仮説
メコノプシスの話に戻りましょう。
このような情報から一定の栽培方法というものが少し見えてきます。
1)苗の育成温度
植物が生育するのに適切な温度というのは、もちろんその種類によって様々ですが、メコノプシスに関していえば10℃以上25℃以下のようです。
しかしそれではずっと暖かい場所で育てれば良いかというと、それでは花が咲かないのです。
2)休眠について
人間の成長に眠りが重要であるように、植物にとっても冬の間の休眠は成長ホルモンを蓄える為に非常に大切な時期です。
チューリップが冬の寒さを経験しないと花芽をつけないように、メコノプシスも秋になって10℃以下になると休眠にはいるようです。
従って冬場は乾燥させないように戸外で冷気にあてておく必要があります。
そして日本でもっとも気温が最低になる2月には完全に休眠状態になるようです。
3)休眠打破
ではその休眠はどのようなタイミングで起こるかというと、ある植物園では一日12時間の人工的な光源で休眠打破をやっているそうです。
ここのところが一番気になります。
日照時間が一日12時間の人工照明ということは春分の日、つまり3月20日頃の日照条件です。
この日を境にして夏至まで昼間が徐々に長くなり、夜が短くなっていきます。
そして昔から「暑さ寒さも彼岸まで」というように季節が冬から春に移り変わる分岐点なのです。
たしかに過去3回の実績を照らし合わせても、この春分の日あたりを境に急に苗が成長を始めています。
メコノプシスは春に咲く宿根草だから、当然、長日植物です。
従って、重要なのは温度ではなく、むしろ日照時間なのではないかと思うのです。
4.メコノプシス育成チェンバー
毎年6月始めにしか咲かないこの花を、もし5月に咲かせられれば、花期も1ヶ月から2ヶ月に伸び、もっと成長して花を長く咲かせられるわけです。
いろいろ試してきて気温の上昇を抑えることは難しいですが、暑くなる前に早く成長させることは可能です。
今回その為に用意したのが、この「メコノプシス育成チェンバー」!(下記注)
ここでヒマラヤと同じとはいかないまでも、メコノプシスを成長させるのに適した環境が作れないかと考えています。
ポイントは苗の成長プロセスにおける光と湿度と温度の管理にあります。
ちなみに、海抜3720mにあるヒマラヤのシャンボチェは、6月の最高気温が10.2℃、最低気温が5.9℃です。
ここでなぜ6月にこだわっているかというと、ヒマラヤの気候の特徴であるモンスーンの始まる時期だからです。
ヒマラヤでの年間降雨量の90%近くがモンスーン期の6〜9月の4ヶ月に集中し、それ以外の季節はほとんど雨が降らないそうで、
メコノプシスはこの時期の始め頃に咲くのです。
このシトシト雨により、湿度はかなり高いと思われます。
メコノプシスの育成環境はまだまだデータ不足でこれからの課題ということになりますが、最終的にはこのチェンバーから出して外で5月に開花させることが目標です。
(注)メコノプシス育成チェンバーの仕様
熱帯魚用の水槽と植物育成用の蛍光ランプ(40W×2)を使用しています。
またこれも熱帯魚用のタイマーを使って自動的にランプのON/OFFをしています。
置き場所は、2階のトイレ。
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